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十六 イエズス、カイファの家に引かれたもう



 アンナの館は、カイファの館から約三百歩足らずの距離の所にあった。壁と小さな家並みの間を抜けて行くその道は、棒の先に取り付けた火鍋で照らされていた。叫び荒れ狂うユダヤ人どもは、行列を目がけて押し寄せてきた。兵卒たちは辛うじてこの大衆を支えた。アンナの所にいた者どもは嘲弄をかれらなりに民衆の前でもくり返した。イエズスはこの道を行く間、始めから終わりまで恥ずかしめられた。わたしは武装した法廷の小使いたちが、主に同情を寄せて泣き叫んでいた少人数の一団を追い散らし、その反対に悪口や雑言を吐いて特に目立っていた者たちには金を与え、その仲間といっしょにカイファの家に入るのを許しているのを見た。

 カイファの法廷に入るには、まず門をくぐり、非常に広い外まわりの庭を抜けてから、広い門をまた、くぐり、建物に囲まれている中庭に入るのである。館の前には三方を回廊に囲まれ、敷石の敷き詰められている広場があった。この広場の中央には壁打ちしてある穴があった。そこには火が入れてあった。広場のもう一つのがわは屋根のついている場所になっていて、そこには議員の席が半円形に作られてあった。その中央の高まった所には大祭司の席があった。被告席は半円の中央にあった。両側とその後方の広場に通ずる空間は証人や告発者らの席であった。大祭司席の後方の壁には三つの扉がついていた。それは大きな円形の広間に通じていた。その広間には壁に沿って高まった座席がずっとついていた。そこで特別の討議が行われるのである。この広間の下には暗い地下の牢獄があった。わたしは聖霊降臨後ペトロとヨハネが神殿の「うるわしの門」と言われる所で、足の悪い人を癒したため、この牢獄に一夜捕らわれていたのを見た。

 建物の内とその周囲は至る所たいまつとランプが燃えていたので、あたかも昼のような明るさであった。その上、前庭の中央には大きな火の穴があり、火が赤々と燃えていた。この火のまわりには兵卒、法廷の小使い、買収された証人、あらゆる乱暴者どもがひしめいていた。その中には女さえも混じっていた。かの女らのうちの何人かは悪い女だった。かの女たちは赤い色の飲み物を注いで出したり、兵卒らに菓子を売っていた。そこはまるでカーニバルの時のようなドンチャン騒ぎであった。

 召集された大部分の者は大祭司のカイファのまわりに椅子に腰を下ろしていた。そこここに、また今しがた入って来たのもいた。告発者と偽証人は広場がほとんどいっぱいにつまるほど非常に大勢だった。多数の者はひしめきあって、入ろうとしていたが、力ずくで追い出されてしまった。

 イエズスが到着される少し前にヨハネとペトロも来た。かれらは裁判所の小使いのマントを着ていたので、外庭に入ることができた。さらになお、ヨハネは運よく知り合いの召使いの計らいで中の方の広場の門をくぐることができた。しかしその門はその後直ちに物凄い群衆の殺到のために閉められた。雑踏のために遅れたペトロは閉ざされた門の前まで来たが、門番の妻は空けてやろうとしなかった。ヨハネは内側から、その女にペトロのため門を開けてやるよう頼んでいた。しかし折よく来合わせたニコデモとアリマテアのヨゼフの口添えがなかったならとても入れそうもなかった。中に入ると二人はマントを小使いに返した。そして広場の群衆の間にこっそりと立った。カイファは裁判長の椅子に座った。そのまわりにはすでに七十人の衆議所の議員が席についていた。そしてかれらのまわりを多くの偽証人、ならず者が取りまいていた。その他大勢の兵卒が特に一行の通って来る門から法廷の席までの間に配置されていた。

 カイファは意地悪極まりない顔をした老人であった。かれは金色の花と房のついた黒味がかった赤い長いマントを着て、浅い司教の帽子に似た帽子をかぶっていた。ユダの裏切りの時以来、すぐに大勢の人がそこに居残っていたが、カイファも何人かの議員といっしょにすでにかなり長い間待っていた、かれは待ち切れなくなって、法服のままその席から降りて広場に走って行き、イエズスはまだ来ないのかと怒鳴りつけた。とかくするうちに一行が近づいて来たので、カイファはふたたび自分の席に戻った。





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